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Scene.9 素敵な風が吹いてきた。

高円寺文庫センター物語⑨

「店長! ひろみちゃんを紹介するけんが、もう有名な写真家なんよ」

「はじめまして! 写真家としては、HIROMIXとして活動しています。

高校在学中の去年なんですけど、写真雑誌の『写真新世紀』で優秀賞を戴きました。まだまだこれからなので、応援して下さい」

「そこで去年のグランプリも取りよったばいねぇ~高円寺育ちやけんが、なんぞ本屋でできんと?!」

「素晴らしかねぇ、ならショーウィンドーを使って写真展はどうね?」

「よかよか! ひろみちゃん、写真展よかよねぇ~」

「内山くん、ひろみちゃん。悪いけんが、後でゆっくり打ち合わせしよ。

実はテレビ番組の『トゥナイト』から、青林堂の長井会長の件で取材依頼があるのよ。予定ある休日だから、内山くんとりえ蔵で出演してくれるとね?!」

マンガを形而上的な「漫画」にまで止揚させた雑誌、『月刊漫画ガロ』の青林堂創業者で初代編集長の長井勝一さんが96年1月5日に亡くなった!

長井さんにお会いしたのは、書泉時代に木造モルタルの二階に直接本を取りに行ったとき程度でしかない。文庫センターでの、青林堂=『ガロ』をリスペクトした仕事がテレビ取材で世間様に認められたと思うと感慨深いものがあった。

ただただ思い入れを込めた仕事をしていれば、どこかでひと様は見てくれているのだなと思う。

などと感慨にふける間もなく、今度のテレビは「出没! アド街ック天国」が!

「もしもし、店長です」

「こちらテレビ東京の番組で『出没! アド街ック天国』と言いますが、高円寺の特集で取材をさせて戴けますか?」

ただし取材時の記憶がまったくなく、この7年ほど後にまた取材があるのだが記憶が錯綜している。

放映では「高円寺に降り立ったら、文庫センターに寄って『街歩きMAP』を貰って高円寺を歩こう」と言ってくれたのが嬉しくて、この時の取材でだったよなぁ・・・・

 

アタマの中には、NEIL YOUNGの「Like A Hurricane」が流れる。

Scene.9 素敵な風が吹いてきた。

 

「こんにちは、いつの間にかうどんまで売っているの?!」

「大原さん、いらっしゃいませ。」

「オリエンタルカレーを売り始めただけでも奇々怪々なのに、どうしてまたうどんなの?」

「徳島に森住書店ってあって、そこの労使関係が労働争議になったので森住書店労働組合への支援にと販売を始めたんですよ」

「本屋さんって、文化産業なんて言われている割に待遇はよくないみたいね」

「出版社は書店さん書店さんって持ち上げるんだけど、神棚に祀り上げた感じですよ。

販売報奨金やディズニーランドご招待とかで誤魔化して、だったらマージンを本屋に少しでも譲れです!」

「あれ! 大原さん、店長に火をつけないで下さいよ」

「あらやだ、りえさん! 今日は、読書相談なの」

「じゃ、店長にお願いします。グッズの在庫チェックするので・・・・」

「小さいお店だから、少人数で忙しいのね。

店長、最近おススメの小説なんてある?!」

「すいません、最近のって感じるとこなくて読みたいとも思わないんですよ」

「でしょでしょ、だから文庫センターに寄ったの!」

「恐縮です。

ならホントに古いんですが、国枝史郎はどうですか。『神州纐纈城』や『八ヶ嶽の魔神』とかが、講談社文庫で再発されたんですよ。

『文庫コレクション 大衆文学館 物語の復活』ってシリーズなんですけどね、これを改めて読んだら去年のオウム教団の勃興を予言しているようで震撼させられましたもん。

かつては横尾忠則ジャケ装の文庫がシャレていたんですが、いまじゃ手に入りにくいと思うんですよね。」

「それ! 知っていたけど、山田風太郎の『奇想小説集』に行っちゃっていたの。だって、鼻とアレの位置が逆転しちゃった『陰茎人』ってドツボ。ニコチャン大王じゃないの(笑)」

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のがわ かずお

1951年 東京生まれ。書泉を経て、高円寺文庫センター店長。その後、出版社のアートン・ゴマブックス・亜紀書房顧問。本屋B&B、西日本出版社などにかかわる。 温泉とプラモデルと映画を、こよなく愛する妖怪マニア。共著『現代子育て考5.男の子育て』(現代書館)、『独断批評』(第三書館)。


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